しかし、オタクが遠出をしようものならその内容が旅行という生ぬるい言葉に収まることはなく、遠征や戦いというもののほうが近くなる。一般的なオタクっ気の無い人たちのキラキラした旅行ブログやヴイログ・ストーリヰと比べると、どうしても己の行いをまとめようにも紀行文から"奇行"文に変わってしまうものである。
夢心地な気分になりながら、何かの間違いでこのまま上野まで連れて行ってくれないかなと思っていたのが災いしたのか、翌朝チェックアウトして函館駅に出てみると「何かの間違い」であると思いたくなる光景が広がっていたのであった。
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B寝台上段での夜は思った以上に居心地が良かったようで、この日は珍しく寝付きよく朝を迎えられた。
これが上り便であれば宇都宮の手前らへんを走っているぐらいの時刻だろうか。
ハシゴ伝いに降りて外を見ても昨夜と同じ場所、ノーミソを現実に戻しつつ""降り支度""を進めてチェックアウト。
ちょうどいい時間に江差線の函館行きに乗車。
さ〜〜て函館で美味しいモノ食べて夕方の特急北斗まで過ごすかぁ〜と思っていた。
しかし日頃から私の投稿を見てくださっている方ならわかるだろうが、このアカウントではただのインフルエンサーでもできるようなバカンス旅行など許されていない。
……車内でふとSNSのTLを見ると目を疑う光景が。
どうやら寝ている間に森を出たところで貨物列車が脱線したらしい。当然この日の札幌〜函館の特急列車は全て運休。
「「キラキラ天体観測映え旅行はそこまでだッ────!!!!!」」
非戦闘モードでいたとしても、ふとした瞬間にノーミソをフル回転させられるときは訪れる。
しかし都市間バスのバス停は長蛇の列、飛行機などもとから便数もキャパシティも少ない上に土休日であるからハナからアテに出来るものではない。
普段スポットライトが当たらない場所だが、函館〜札幌を結ぶ交通は北海道の大動脈でありながら、その中の森〜長万部はバイパスになる存在が無く、この区間が絶たれてしまうとニッチもサッチも行かなくなるのである。けっこうな弱点だ。
高速バスも飛行機も無いものと考えると、長万部行きの路線バスにしがみつくか、一度海を渡り青森に出て室蘭行きフェリー、あるいは八戸まで出て苫小牧行きフェリーぐらいか。一度埼玉の実家に駆け込んだほうが手っ取り早いまである。
青森〜函館はだいぶ強靭になってきた一方、函館から先が落とし穴になりやすいのである。
先述の通りこの日は土休日である。おとなしく函館で一泊するという考えももちろん浮かんだが、宿代の額面だけでなく、事が事であるだけに一泊したところで翌日に復旧する保証などどこにもない。
「俺の、答えは、これだ。」
麻痺している区間は森〜長万部である。長万部まで出てしまえば山線なり室蘭経由なり選択肢はある。
長期戦にもつれ込むのを嫌い、長万部行きの路線バスの力を借りて鈍行で帰札……という判断に行き着いた。
どうもこのバス路線、駅でなく別の場所にある営業所が始発点らしい。駅のバス乗り場はえげつない列。
一か八かで営業所の方へと向かった。
函館市電・函館駅前→千歳町
徒歩・函館バスセンター
…………誰もいない。駅前のパニックなど知らんと言わんばかりに待合室には誰もいない。
待合室横の一般利用可能の社員食堂にて腹ごしらえをし、始発のバスに乗車。当然のように着席。
予想通り函館駅からはギリギリ積み切れるくらいの大混雑。私も脳死でこの列に並んでいたら、このまま3〜4時間ほど立ちっぱなしになってしまっていたのだ。
函館BC→長万部駅
いつものように流れの悪い国道5号をえっちらおっちら、一つ一つ停留所を進んでゆく。森や八雲などの特急停車駅からは更に乗車があり、ドアが開閉できなくなるほどステップギリギリまで、多くの乗客とスーツケースが詰め込まれていた。
11月末の北海道、雪は無いものの空気は冷たい。しかし車内の空気は熱気を帯びており、窓を開けたくて仕方がなかったが、気を遣わないといけない季節である。
平時であれば流れよくすんなり移動できる鉄道のありがたさを思い知りながら、第一関門をクリアした。
函館本線・長万部→小樽
室蘭本線と函館本線の分岐駅。函館本線(小樽)まわりで行くほうがほんの若干運賃が安い。特急列車はすべて運休であるため、ここからは普通列車での移動である。
私の選択は小樽経由。先に室蘭本線の列車が出発、ここに外国人観光客の波が押し込まれた。
その少しあとに小樽行きの普通列車に乗車、それでも始発駅の段階で席が埋まった。
両線とも普通列車は新型車両に置き換えられているが、従来の車両よりも席数が減った上に、椅子もかなり硬くなっている。
背中と腰の悲鳴をごまかしながらニセコ、倶知安、仁木、余市と来て小樽に到着。最終列車から最終列車への乗り継ぎという綱渡り感を味わいつつ、岩見沢行きの最終列車に乗り継いで札幌まで生還した。
函館本線・小樽→札幌
結果的に一番手っ取り早く、かつバス代と長万部→札幌の切符代は払い戻し金額にお釣りが出るくらいでカバーできた。当然こんな機会はなかなか無いので改札口で無効印をもらい、冒険の書を持ち帰らせてもらった。
旅行は自分が行くから面白いとはいえど、厄介な目に遭うのは私だけで十分である。
────""理解った""だろう?
家に帰るまでが、「遠足」なのだ────